研究室紹介
Imperial College of Science, Technology and Medicine
Department of Civil and Environmental Engineering
Soil Mechanics Division


1. 研究室 (Laboratory)

こちらの大学はセキュリティーがきびしく,夕方からは身分証明書がないと建物に出入りできなくなります.夜11時からは全く出入りが出来ません.遅れると次の日の朝まで閉じこめられてしまいます.

机はPhDの学生の部屋にもらいました.15人くらいの大部屋ですが,学生は実験室や計算機室でいるので,ほとんど人はいません.ちょっと寂しいです.

こちらでは,勤勉であるということは,変人とまではいかないまでも,良い印象は与えないみたいですね.休日はなにをして過ごしたかと聞かれて,仕事していた(やることがなかったので)と答えたら,それはひどい休日だったねといやな顔をされました.テレビを見て(やることがなかったので)部屋で休んでいたと答えると,それはすばらしい休日を過ごしたと絶賛されます.できる人はやらなくてもできる,また,やらないで良い方法を知っているというイメージがあるみたいです.たとえ忙しくても,人には知られないようにすべきなのだそうです.仕事で徹夜して自慢している日本人とは,価値観が違います.家でごろ寝とか,公園で日光浴とか,我々日本人にとってはつまらない休日の過ごし方でも,自分の好きなことができたということが評価されるのです.

毎日10:30からと15:30からはティータイムです.どこからともなく,ぞろぞろと実験室に集まってきて,お茶を飲みながらおしゃべりします.優雅ですね.また毎週金曜日はパブで飲んでいます.教官も結構出ています.昼休みも12:00〜14:00とたっぷりあります.

Lab100 研究室のクリスマスパーティーの写真です.厚かましくも,SkemptonとBurlandを横に従え,絶好の位置をキープ.こちらではクリスマスから年明けまでほとんど休みとなります.学生達もほとんど帰省して,本当に寂しくなります.こちらのクリスマス当日はにぎやかかと思いきや,店は閉まりバスも地下鉄も止まってしまいます.

大学の位置づけについて一言.ある教官が学生に対して,ケンブリッジ大学は基礎学問を追究するために設立されたが,インペリアルカレッジはそれを応用するために設立されたと言っていました.つまり古株大学は基礎学問を,新参大学はそれを応用するために貢献せよということでしょうか.インペリアルカレッジも100年程度の歴史があると思いますが,イギリスの大学の中にあっては新しい方です.このインペリアルカレッジの位置づけ,長岡技大に似ているような気がしますね.日本もイギリスも,根底にはこうした大学の基本理念がありますが,基本的には教官が好きなことをやっていると思います.だって,基礎研究ばかりやっている私が長岡技大でいられるのは,良い見本ですよね.


2. 教官 (Professors)

教官とは部屋も違うため,ほとんど会う機会がなく,実態はよくつかめませんでしたが,わかる範囲でかいてみます.

J. B. Burland
2001年10月に退職しましたが,当分は大学に出てくるでしょうね.学生の間では名講義で有名です.やさしそうでおっとりした感じです.息子さんは福井の地方局の女性アナウンサーと結婚して日本で住んでいるとか.息子に会いに福井を訪れたりしているみたいです.

R. J. Chandler
やさしそうな感じです.研究は地すべりでしょうか.たまたまでしょうか,PhDの学生は受け持っていませんでした.講義等で話している内容では実務系が多いですね.

D. M. Potts
ムスッとした感じで,近寄りがたい感じです.現在土質系のヘッド(取りまとめ)をつとめています.研究は解析中心で実験には手を出していません.最先端の解析をというのではありませんが,解析に関しては御大という感じでしょう.最近は不飽和土の解析に力を入れているようです.2002年にランキンレクチャーを行うそうです.

R. J. Jardine
日本では微少ひずみ関係で結構有名です.研究は杭関係と微小ひずみ関係でしょうか.学位取得に関してはかなり厳しいようで,論文執筆中にも次々要望が出てきて,なかなか終わらしてもらえないようです.私がいたときも,オーバードクターが2名いました.厳しいのでしょうか.話をしても,厳しさは感じられませんでした.

A. W. Skempton
Skemptonは2001年8月に亡くなられました.見た目にもかなり高齢でしたが,非常に元気で,ほとんど毎日のように大学に出てきておられました.歴史(土木技術者)に興味があるとかで,総合図書館で文献を読んでおられるのを何度かみかけたこともあります.学生の部屋のでっかい段ボール箱にSkemptonノートが無造作に置かれていましたが,今思えば,コピーして持ち帰ればよかった.

P. R. Vaughan
数年前にランキンレクチャーをされたと思います.退官されていますが,たまに大学に現れます.講義も数回受け持っているみたいです.ワイン好きで,研究室で年に数回ワインパーティを開きます.

A. W. Bishop
Bishopは若くして亡くなったと聞きます.しかし名前は今でも残っています.実験室は内扉でつながっていますが,2部屋有り,1つは今でもBishop Lab.と呼ばれています.ここには,リングせん断,中空,三軸などの主力試験機が配置されています.ほとんどの試験機にBishopの考えが反映されています.この影響はイギリス全体に広がっていそうです.日本も,初期の頃はこの影響を受けていましたが,最近はだいぶん変わってきていますね.初期の土質実験はBishopにより大きく発展したといえるでしょう.

以上の他に,Lecturerが6名います.大きな研究室ですが,正規の教授のポストは1名分しかなく,あとは持ち回りかテンポラリー的なものみたいです.当然,教授が1名だけの分野もあり,現役教授4名は土木のなかでも特別です.その他のスタッフとして技官(テクニシャンといいます)が3名程度,女性秘書が1名となっています.技官は試験機のセッティング等を取り仕切っていて,学生が試験を軌道にのせるまでは技官の協力が必要になります.電気に詳しい人,機械に詳しい人等,色々いるようです.あまり協力が得られないことがあるのでしょうか.学生は技官の協力が得られるかどうかをかなり気にしています.


3. 修士 (MSc Course)

Imperial Collegeの修士のシステムを紹介したいと思います.

いわゆる,MScといわれているものですが,1年で取得可能です.分野はかなり細分化されています.土木の修士というのはありません.土質の修士となります.以下の分野があります.

Soil Mechanics 8名程度
Soil Mechanics and Engineering Seismology 8名程度
Soil Mechanics and Environmental Geotechnics 8名程度

取る科目はほとんど同じで,差はほとんどありません.年三回の現場見学旅行が組まれていて,海外(イタリア)にも行きます.

秋学期(10月〜12月),春学期(1月〜3月)に講義があり,その後,テスト(5月),修士論文作成(8月下旬提出)となります.修論発表会はないんですよね.見学会と土質実験については,グループ発表があります.

講義時間は,9:00〜12:00と14:00〜17:00までの1日2コマです.1コマ3時間とはすごいと思ったのですが,普通,1時間毎に15分程度の休みを取ります.また,最後の1時間は演習及び質問に当てる先生がほとんどです.結構休み時間をとりますね.イギリス人は集中力が続かないのでしょうか.2時間の昼休みもすごい.でも,OHPを使って講義をし,ノートを配るので,かなり進みます.家で,復習しないとついていけませんね.

学生はほとんどの時間が講義で埋まっています.土関係の講義ばかり,よくできるなと思いますが,土に関係した教官の数も多い.10名程度います.以下に,提供されている主な講義名を挙げておきます.

  1. Strength and Deformation
    Burland教授が,三軸はもとより中空やリングせん断の結果も登場し,異方性,原位置粘土,特殊粘土の挙動を延々と講義します.名講義と呼び声の高い講義です.土は複雑で,解明できていない部分やモデル化できていない部分も多いが,修正カムクレイモデルは,シンプルで数学的に美しく土のある一面をとらえているすばらしいモデルである,と最後を締めくくります.
  2. Consolidation and Seepage
  3. Analysis and Constitutive Modeling
  4. Stability of Soil Slopes
  5. Foundations
  6. Earth Pressures
  7. Engineering Geology
  8. Embankment and Earthworks
  9. Laboratory and Field Techniques
    室内実験や現場測定のことまで,かなりマニアックです.
  10. Advanced Soil Properties
    微少ひずみが登場します.
  11. Partly Saturated Soil Behaviour
  12. Geotechnical Processes

学生は留学生がほとんどなのですが(イギリス人は3割程度),英語力はかなりのものです.TOEFLが650点以上でないと入学できないとか.学生は講義を非常に熱心に聞いていて,寝ている学生などいません.ただ,時間には少しルーズで,朝遅れてきたり,休み時間に,コーヒーやお菓子を買いに行ってなかなか帰ってきません.実務経験がありそうな学生も結構います.講義を理解しようとする努力および興味は日本人よりずっと強いと思います.いろいろな国から集まっていますので,ここでは習ってないからわかりませんというのは通用しません.参考書だけでなく,研究論文まで持ち出して勉強している学生もいます.教官は,高度なことを駆け足で学生に教えとけば,あとは学生が勝手に勉強してくれる,といった感じです.

土質関係だけで20人以上の修士学生,就職はどうするのだろうと思いますが,留学生が多いのであまり問題にならないのでしょうか.求人率は知りませんが,アメリカからもリクルートに来て,面接を行ったりするところはさすがですね.日程からもわかるように修論は簡単に済ませるみたいです.研究室内に修士学生用の机というものは存在しませんし,そんなスペースもありません.日本の修士とはかなり違いますね.


4. 博士 (PhD Course)

PhDの取得には一般的に3年必要ですが,ここはかなり厳しいようで,3年で取れる学生はほとんどいないようです.4年制の学部を卒業すれば(MEng),すぐにPhDに入れるみたいです.3年制もあるみたいですが,この場合は,PhDに入るためには別途修士の学位が必要です.学部卒業後は研究室で研究だけやって3年でPhDが取得可能とはすごいですね.PhDの学生は15名ほどいますが,いろんな学生がいます.年齢は23歳から40歳までいます.経歴も,学部を出てすぐにPhDに入る学生もいれば,3年制の学部を卒業して,数年働いてからMScに入って,また数年働いてからPhDに入るという,3度入学している学生も数名います.これはMScやPhDを取得することで,道が開け待遇も変わってくることを意味しているのだと思います.日本の文部科学省も大学院拡幅に力を入れていますが,学位取得後の学生を待遇よく受け入れる社会システムが整っていませんね.せめて国の機関だけでも受入システムをよくして欲しいですね(例えば,国家一種には修士以上の学位が必要とか).明快な具体例を挙げられないので,学生を説得するのも一苦労です.大学院での苦労が,就職した後には必ず実を結ぶのだ!と学生に力説している自分は,傍から見ると変な宗教の教祖様ですね.


実験設備 (Equipment) へGO


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